ダイレクトリクルーティングとは、人事関係者が知っておきたい「求人」との違い

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近年、人事・労務専門誌、人材採用セミナーなどで「ダイレクトリクルーティング」がテーマになるケースが増えています。実際のところ、ダイレクトリクルーティングとはどのような人材採用手法なのでしょうか。

ダイレクトリクルーティングとは

ダイレクトリクルーティングとは、自社が求める人材を企業自らスカウトし、採用する手法です。
日本では求人広告媒体や人材紹介会社を通じて間接的に求人活動をする方法が定着しています。これと異なり、求人企業が求職者と直接コンタクトを取って求人活動をするところからダイレクトリクルーティングと呼ばれています。
ダイレクトリクルーティングには、

  1. ダイレクトリクルーティング専門サービス会社が提供する人材データベースを利用する
  2. SNS投稿によるソーシャルリクルーティングを利用する
  3. 昔ながらの縁故採用を利用する
  4. 自社のコーポレートサイトで人材募集をする

などの形態があります。この中でダイレクトリクルーティングと言えば①のダイレクトリクルーティングサービスを指すのが一般と言えます。

なおダイレクトリクルーティングは和製英語で、米国では「ダイレクトソーシング」と呼ばれ、求職者を獲得するまでのフェーズを意味し、要件も定義されているメジャーな人材採用手法です。
対してダイレクトリクルーティングはその後のフェーズも含んだ広い概念で使用されており、定義も曖昧です。したがってこの用語を使用する人により「とは?」の解釈に若干のずれが見られ、同音異義になりがちなところがあります。

ダイレクトリクルーティングを採用する企業が増加している理由

日本でダイレクトリクルーティングを採用する企業が増加している理由として、次の3つが挙げられます。

(1)事業環境の加速度的な変化

ITとインターネットの進化により商品のライフサイクル、サプライチェーンなどの事業環境が変化するスピードが加速度的に上がっています。これに伴い企業は常に自社を取り巻く事業環境を把握し、環境変化に対応してビジネスモデルを再構築する必要に迫られています。
そのためにはビジネスモデルの再構築を担うスキルのある人材の確保や育成が不可欠です。ところが従来の間接的な求人活動では困難です。この解決策としてダイレクトリクルーティングが注目されています。

(2)生産年齢人口の減少

少子高齢化を背景とした生産年齢人口が減少する中、人材市場では優秀な人材の争奪戦も頻発しています。
このため間接的に求人活動をする「待ちの人材採用」では優秀な人材確保が困難になっています。「攻めの人材採用手法」と言われるダイレクトリクルーティングが注目されているゆえんでもあります。

(3) 求職者との直接コンタクト環境の整備

従来、企業が求職者に直接コンタクトする方法は、縁故採用以外にありませんでした。しかしSNSやメールの普及により、企業が求職者に直接コンタクトできる環境が整備されました。

ダイレクトリクルーティングのメリット

ダイレクトリクルーティングのメリットとして、一般に次が挙げられます。

(1)潜在転職者にアプローチできる

人材市場には今すぐに転職したい顕在転職者と、良い条件があればその時に転職したいと考えている潜在転職者が混在しています。
顕在転職者は複数の転職支援サービス会社に求職登録をしているので、求職者にアプローチするのは比較的容易です。ところが潜在転職者の場合は、転職支援サービス会社に求職登録していない人も多く、従来の採用手法ではアプローチするのが困難でした。
しかしダイレクトリクルーティングなら、ダイレクトリクルーティングサービス会社の人材データベースを利用できるので、そこに登録している潜在転職者に容易にアプローチできます。このため採用候補者の母数が増え、優秀な人材採用の可能性が高まります。

(2)自社が欲している人材にアプローチできる

従来の人材採用手法では、転職支援サービス会社が用意した募集要項に採用条件を記入する仕組みなので、公開できる採用情報は限られています。このため自社の人材採用要件を満たすことなく「入社したい人材」も多数応募してきます。採用側はまずその振り分けに労力と時間を取られます。
しかしダイレクトリクルーティングの場合は企業側からアプローチできるので、初めから自社の人材採用要件を満たした人材へのアプローチが可能になります。採用ミスマッチも最小化できます。

ダイレクトリクルーティングの実施手順

ダイレクトリクルーティングは、基本的に次の手順で実施します。

手順1:人材採用候補者をピックアップ

ダイレクトリクルーティング専門サービス会社の人材データベースにアクセスし、登録者の履歴書、職務経歴書、サービス会社の人材評価などを参考に、自社の人材採用要件にマッチした候補者を選出します。

手順2:人材採用候補者にスカウトメールを送信

スカウトメールは候補者個別に作成し、「当社があなたをスカウトした理由」を明記した文面にする必要があります。候補者全員に同一文面と言うおざなりなスカウトメールは相手の心に届かず、返信はほぼ見込めない結果に終わります。

手順3:面接時に人材採用候補者の入社意思を確認

候補者から返信が来れば当日中に面接案内メールを送信し、候補者の面接意欲を誘います。優秀な候補者は複数の企業からスカウトメールを受けているのが通例です。したがって返信メールには自社の熱意を示すため、面接案内メールの即送信が重要です。また面接案内メールには返信に対する感謝の意と、「ぜひ会って話をしたい」熱意を込めた文面も重要です。
そして面接で双方の人材価値観に関するベクトルと労働条件が合えば、その場で入社の意思を確認します。これにより候補者の入社意思が固まります。

手順4:内定通知

役員面接、役員を交えた選考の社内手続きを経て入社日時、労働条件、処遇などを明記した内定通知書を送付します。
ダイレクトリクルーティングは「入社したい人」ではなく「入社してほしい人材」の採用が目的です。やっとアプローチできた優秀な人材を確保するためには、スカウトメール送信から内定通知送付までの採用業務は、迅速かつ緻密に処理する必要があります。

ダイレクトリクルーティング成功のポイント

ダイレクトリクルーティングに成功するためには、次の点に留意する必要があります。

(1)全社的に取り組む

ダイレクトリクルーティングは、「取り敢えずの即戦力」や「人員補充」のための採用手法ではありません。自社の将来を担う人材採用を目的にした手法です。
このため自社に必要な人材要件は何かの「人材要件定義」に基づく戦略的人事の観点から、全社的に取り組む必要があります。

(2)ダイレクトリクルーティング改善のための専任者を決める

ダイレクトリクルーティングは短期的な結果を求める人材採用手法ではないので、PDCAを回して改善を重ねる長期的な取組みが重要です。
長期的に取り組むためには、その司令塔となり、責任を持ってダイレクトリクルーティングを推進してゆく専任者が必要です。

(3)人材像を明確にした上で人材要件定義は厳密化しない

自社に必要な人材像の明確化は言うまでもなく重要ですが、それに基づく人材要件定義は幅を持たせて行う必要があります。世の中には何事も「白と黒」の間のグレーゾーンが存在します。グレーゾーンがあるから社員は自らの裁量で失敗を恐れず困難な業務に挑戦することができます。
それと同じで要件定義を厳格化すると候補者の母数が少なくなり、優秀な人材採用の確率が下がります。

まとめ

ダイレクトリクルーティングは優秀な人材確保に優れた効果を発揮する手法ですが、実は導入に成功しやすい企業とそうでない企業があります。
ダイレクトリクルーティングを導入するには、従来の間接的求人活動で生じていた問題点解決を目指し、戦略的人事の観点から人材採用業務を改革する必要があります。
また採用した人材が活躍しやすいよう人事・労務制度、業務フローなどを改革する必要が出てくる場合もあります。このような改革に積極的に取り組める企業がダイレクトリクルーティングの導入に成功しやすい企業と言えます。
またそうでない企業が導入を検討する際は、これらを合わせて検討する必要があるでしょう。