iPaaSとは何か、情報システム関係者が知っておきたい必要性とメリット

「iPaaSとは何か、情報システム関係者が知っておきたい必要性とメリット」のアイキャッチ画像

DX推進に伴い、企業は顧客情報管理、営業支援など様々な情報システムを併存運用するのが常識化しています。その結果、新たに発生してきた問題が各種ソフウェアトの不整合とデータの不互換です。この問題解決策が「iPaaS」と言われています。ここではiPaaSが必要とされている理由、導入のメリットなどを解説します。

iPaaSとは

iPaaS(Integration Platform as a Serviceːクラウド統合プラットフォーム)とは、クラウドサービスの一種で、

  • 複数のソフトウェアを統合する
  • 複数のソフトウェアのデータを自動的に互換する
  • 複数の情報システムを連携させる

などにより、業務効率の向上を図るプラットフォームサービスのことです。
クラウドサービスにはiPaaSの他にSaaS、PaaS、IaaSの3種類があります。
それぞれの違いは次の通りです。

  • SaaS(Software as a Service)……クラウド上でユーザがソフトウェアを利用できるサービス
  • PaaS(Platform as a Service)……クラウド上でユーザがソフトウェアを開発できるサービス
  • IaaS(Infrastructure as a Service)……クラウド上でユーザが情報システムを開発できるサービス

iPaaSとRPAとの違い

RPA(Robotic Process Automationːロボットによる業務自動化)の機能とiPaaSの機能はよく似ているので、しばしば混同されます。しかし両者には決定的な違いがあります。
それは「API(Application Programming Interfaceːソフトウェア共有インターフェース)を必要とするかどうか」です。
APIとはソフトウェアの開発を容易にするインターフェースのこと。情報システムの運用において、複数のシステムを統合できる仕組みにもなっています。
このAPIがなければ、iPaaSは情報システムの統合ができません。
一方、RPAにAPIは不要です。RPAは特定業務の定型的な情報処理を人に代わって効率化するツールで、複数システムの連携とは無縁だからです。

もう1つ、両者には情報処理範囲の違いがあります。
iPaaSは複数の情報システムの膨大な情報処理業務を簡素化・効率化するために開発されました。したがってクラウド上の複数の情報システムを統合し、社内の情報処理業務全体を効率化できるサービスです。
一方、RPAは、例えば「書類Aの顧客名・年齢・職業をコピーし、顧客情報管理リストへ貼り付ける」と言った、従来人がマウスを使い手作業でやっていた単純作業を自動化するためのツールです。したがって定型的な単純作業を効率化するに止まります。

iPaaSが必要とされている理由

iPaaSが必要とされている理由として、次が挙げられます。

(1)オンプレミスからオフプレミスへのデータ移行を容易にするため

ソフトウェアは大別して2種類あります。1つはオンプレミスで開発したソフトウェア。もう1つはオフプレミスのクラウドサービスを利用して開発したソフトウェア。
その企業独自のカスタマイズを要するソフトウェアは、かつてはオンプレミスで開発するしかありませんでした。しかし、開発利便性の高いオフプレミスのクラウドサービスが登場したことにより、企業独自のカスタマイズを要するソフトウェアもクラウドクラウド上での開発が可能になりました。ソフトウェア開発のオンプレミスからクラウドサービスへの移行が進んでいるゆえんです。
しかしこの移行で問題になってきたのが、オンプレミスで開発したソフトウェアデータのクラウドサービスへの移行です。
手動で移行する場合は膨大な手間と時間がかかります。人為ミスも頻発します。自動データ移行プログラムの開発にもコストと時間がかかります。この八方塞のような問題を解決したのがiPaaSと言えます。iPaaSの登場により、オンプレミスからオフプレミスへのデータ移行が容易になりました。

(2)複数のソフトウェアデータの互換性をとるため

オンプレミスからクラウドサービスへ情報システムの運用を移行した企業の大半は、同サービスのSaaS上で複数のソフトウェアを使用しています。この複数のソフトウェアデータを統合し、互換性を担保するのがiPaaSの機能です。
iPaaSにより複数のソフトウェアデータの互換が容易になり、業務フローの最適化が可能になります。

iPaaSのメリット

iPaaS導入のメリットとして、一般に次が挙げられます。

(1)新しい情報システムの導入が容易

新しい情報システムがベンダにより次々と開発されており、その機能や利便性は年々向上しています。
このベンダ開発の情報システムをクラウドサービス上の自社の情報システムと統合する際のネックになるのがデータの互換性です。いかに高機能で利便性の高いシステムでも、データの互換性がなければ導入しても運用が複雑化するだけです。
その点iPaaSは、新システムと既存システムとの連携やデータ互換が容易なので、最新の情報システムもクラウド上でスムーズに導入でき、既存システムと同じユーザインターフェースで運用が可能です。つまり情報システムの一元化が可能になります。
また新システムと既存システムのデータの互換性を取るためのミドルウェア開発とそのコストも不要です。

(2)データの一元管理が可能

これまで個別の情報システムで管理していた業務データの一元管理が可能になるので、データ管理の効率化を図れます。

(3)過去のデータ活用も可能

ソフトウェアをオンプレミスで開発し、使用頻度が少ないために死蔵状態になっていた重要な業務データも、クラウドサービス上の最新の情報システムで活用できます。

(4)データ分析の精度向上が可能

各部門でそれぞれ情報システムを運用している企業では、他部門のデータが必要になった場合、その部門にデータ提供を依頼する必要があります。また自部門が必要とするデータが他の複数部門に点在している場合は、それぞれの部門のデータを寄せ集め、自部門のシステム向けにデータフォーマットを統一する必要があります。
しかしiPaaSはシステム間連携やデータ互換が容易なので、他部門へデータ提供を依頼する、他の複数部門に点在しているデータを寄せ集めるなどの手作業が不要になります。自部門で使用しているシステムで他部門のシステムのデータをリアルタイムで利用できるからです。
このためデータ分析が行いやすくなり、自部門と他部門のデータを統合的・多角的に分析することもできるので、データ分析の精度向上が可能になります。

iPaaSの活用例

iPaaSは営業、マーケティング、人事・労務などの複雑な情報処理業務の効率化に適していると言われています。iPaaSの実際の活用例として、不動産管理会社A社のケースを紹介します。

(1)賃貸物件の空室情報登録

賃貸マンション・アパートは、入居者が退居すると即座に入居者募集をしなければ空室期間が長引き、その間の賃貸料収入が途絶えることになります。
そこで同社は、

  • 入居者が退去すると当該物件管理担当社員が即座に入居者募集の必要データをフォームに入力
  • RPAがそのデータをクラウド上の賃貸物件管理システムと不動産物件仲介会社の賃貸物件情報サイトへ登録
  • 登録完了と同時にiPaaSがクラウド上の賃貸物件管理システムの当該物件情報を更新
  • 賃貸物件情報サイトへユーザから物件の問合せがあるとiPaaSが問合せ内容をクラウド上の賃貸物件管理システムへチャットで通知。営業社員が即座に問合せ対応

これにより同社は、空室期間の最短化を図っています。

(2)入居者決定物件の空室情報削除

空室物件の新規入居者が決まったら、賃貸物件情報サイトの空室情報を即座に削除しないと、ユーザから問合せがあった場合、

  • 営業部門が当該ユーザへ「その物件は満室」の旨を丁寧に返答する必要がある
  • 管理会社としての信用が低下する

などの手間やリスクが発生する可能性があります。
そこで同社はiPaaSを活用して賃貸物件情報サイトに登録した物件情報の即刻削除、賃貸物件管理システムの自動更新などの処理を行い、そうした手間・リスク発生の防止措置を講じています。

まとめ

iPaaSを導入する際は、まず導入目的を明確化する必要があります。たとえば「AとBのシステムを統合して業務処理の効率向上を図る」、「AシステムのデータとBシステムのデータを統合してデータ処理速度をアップする」などです。これらの目的が曖昧だと、iPaaSを導入しても宝の持ち腐れになる可能性があります。
次にiPaaS導入の目的を社内に周知徹底し、運用開始日時を決定し、それまでに既存情報システムのiPaaS移行準備を済ませておく必要があります。これが曖昧だと、運用開始後も使い慣れた既存情報システムを使い続ける社員が後を絶たず、従来通りの様々な情報システムの併存運用が続き、業務フローの統一化もできず、iPaaS導入の効果がなくなってしまいます。