営業関係者が知っておきたいカスタマージャーニーマップの基礎知識

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ここ数年、カスタマージャーニーマップを導入する企業が増えています。営業関係者の間でもよく話題になりますが、新しい販促手法と言うこともあり、その全体像を知っている人は少ないようです。ここではそんな営業関係者が知っておきたいカスタマージャーニーマップの基礎知識を解説します。

カスタマージャーニーマップとは

「カスタマージャーニーマップ」の「カスタマージャーニー」は、広義には「顧客の旅程」を意味しますが、マーケティングでは「顧客が自社商品を認知し、興味を持ち、購買したまでのプロセスを可視化する手法」を指します。

そして「カスタマージャーニーマップ」はこの手法を図式化したものです。

カスタマージャーニーの目的

バブル景気が弾けた1990年代初頭までのマーケティングでは、例えば「ターゲットは20代独身女性」と大まかに設定し、それを対象にマスメディアを主体にした販促活動で一定の成果を上げてきました。

しかしインターネットが普及し、メディアが多様化した現在、ユーザは実店舗、マスメディア、Webサイト、SNSなど様々なチャネルを通じて商品情報を横断的に収集し、購買の意思決定をしています。

このため、ターゲットを「20代独身女性」に設定する場合も、例えば「28歳独身女性、中堅建設会社の財務部勤務、日商簿記2級資格所有、趣味は旅行」と詳細に設定し、その設定に則した適切な販促活動を行わないと成果を上げられない時代になっています。

このため現在の販促活動では「ペルソナ(自社の具体的な顧客像)」を設定し、ペルソナの購買行動を分析し、その結果に基づいた仮説と検証が不可欠になっています。こうした販促活動の効果を上げるのがカスタマージャーニーの目的と言えます。

カスタマージャーニーの役割

現在の販促活動では見込み客の興味、思考、感情などの内面的な情報をリサーチし、有効となるタッチポイント(SNS、営業社員、実店舗など見込み客との接触チャネル)を活用し、適切な商品情報を提供し、その結果を営業送客することが重要と言われています。

そのためには数あるクロスチャネルの中から、顧客が自社商品と接触するタッチポイントを探り出す作業が不可欠になります。この探索精度を高めるのがカスタマージャーニーの役割になります。

カスタマージャーニーマップの種類

カスタマージャーニーを図式化できるカスタマージャーニーマップは、用途により次の3種類に分かれます。

(1)マクロ型マップ

自社のすべての顧客の購買行動をチェックするためのマップです。

そのためにマーケティングファネル(商品認知から購買までのプロセスを経るごとに見込み客が減少してゆくモデル)を使い、どのプロセスに見込み客の減少要因があるのかを究明します。

(2)ミクロ型マップ

自社の顧客個別の購買行動を、サンプルとなるペルソナでチェックするためのマップで、顧客の購買行動における自社のボトルネックを発見する時に有効なマップです。

(3)シナリオ型マップ

MA(マーケティングオートメーション)などのデジタルマーケティングツールによる見込み客育成シナリオを作ることを目的にしたマップです。

カスタマージャーニーマップ作成のメリット

カスタマージャーニーマップ作成のメリットとして、一般に次が挙げられます。

(1)見込み客の購買行動の深層把握が可能に

Webサイトのアクセスログ解析結果やWebアンケート調査結果分析では、見込み客の「商品を比較した」、「ショールームで実際の使用感を確かめた」などの表層的な購買行動を把握できても、その時の思考や感情までは把握できません。しかしカスタマージャーニーマップはペルソナの内面的な購買行動を可視化できるので、販促担当者は見込み客の購買行動の深層把握が可能になります。

(2)迅速かつ的確な販促活動の意思決定が可能に

カスタマージャーニーマップは販促部門だけではなく、営業部門、商品開発部門、コールセンターなどの社内横断的プロジェクトチームを結成し、社内横断的に収集した情報をカスタマージャーニーマップのフレーム枠に嵌め込む形で作成します。

この過程で顧客の購買行動に対するチーム内の共通認識が深まるので、精度の高い課題分析と迅速かつ的確な販促活動の意思決定が可能になります。

(3)一貫性とストーリー性のあるコンテンツ制作が可能に

タッチポイントで見込み客に提供する商品情報のコンテンツを制作する際、従来の方法ではどうしても販促、開発など各部門のコンテンツ制作者ごとにコンテンツに対する認識の違いがあり、コンテンツの一貫性とストーリー性を担保できない欠点がありました。

しかしカスタマージャーニーマップがあればペルソナの購買行動を可視化できているので、それを指針に担当者ごとの認識のズレを最小限化することができます。その結果、タッチポイントから次のタッチポイントへと一貫性とストーリー性があるコンテンツ制作が可能になります。このため自社商品に対する見込み客の理解度が深まり、購買意欲が高まる可能性も高まります。

カスタマージャーニーマップの作成手順

カスタマージャーニーマップの作成手順はマップにより異なりますが、作成例の多いミクロ型マップの場合は一般に次の手順で行います。

(1)ゴール設定

マップ作成のゴールを設定します。購買促進、顧客満足度向上、既存顧客のロイヤルティ向上などゴールをどこに設定するかにより、ペルソナ設定に向けて収集する情報の種類が変わってきます。

(2)ペルソナ設定

ゴールへ到達するためのペルソナを設定します。そのためにペルソナに合致した情報を、自社で蓄積した顧客情報、シンクタンク・マーケティングリサーチ会社が所有している市場調査情報などから収集します。

(3)フレーム設定

収集した情報をマップに嵌め込むためのフレームを設定します。

一般によく利用されるフレームが横軸に商品の認知・興味、商品情報収集・比較検討、購買行動、購買の4項目の時系列購買行動プロセスを置き、縦軸にタッチポイント、行動、思考、感情、課題の5項目のペルソナのステージを置き、全部で20枠にそれぞれの情報をラフに嵌め込んでゆくフレームです。

(4)課題分析

フレームを設定したマップで、縦軸のタッチポイントから感情までの4項目の情報と購買行動プロセスごとの紐付け分析を行うことで、ペルソナが何故そのような行動をしたのかの要因(使用感を確かめたのに購買しなかった、購買に対する不安・不満があったなど)の推測ができます。その結果を「課題」のペルソナステージに記入し、購買行動プロセスごとの販促活動上の隠れた問題点の発見に努めます。

カスタマージャーニーマップ作成事例に見るそれぞれの特徴

<旅行代理店のカスタマージャーニーマップ>

欧州の旅行代理店Rail Europeが作成したマップは、鉄道旅行の計画、乗車券の予約、旅行、旅行後と4つのプロセスごとに顧客の行動、思考、感情、体験をマッピングしています。さらに自社の課題・改善事項をマッピングし、顧客の内面に関する社内認識共有度を高めているのが特徴と言えます。

<博物館のカスタマージャーニーマップ>

米国サンフランシスコの博物館Exploratoriumが作成したマップは、ペルソナを「サンフランシスコに住んでいる大人」、「観光客」、「ヒスパニックの家族」、「博物館会員の家族」の4つに分類し、各ペルソナの来館前、館内回遊、退館の各プロセスの行動をマッピングしているのが特徴です。

ともすれば「ペルソナは一人」のイメージを抱きがちです。しかしビジネスの現場では「ペルソナは複数人」が常識と言えるでしょう。その意味で同マップはリアルで、自社の参考になる企業は多いものと思われます。

<化粧品メーカーのカスタマージャーニーマップ>

化粧品メーカーLANCOMEが作成したマップは、顧客が同社商品を知ってから詳しい商品情報を検索し、商品を購買し、その後どんな行動をしたのかまでのプロセスをマッピングしています。

また顧客は商品情報をSNSで検索し、商品購買後はその評価をSNSで友人とシェアすることもマッピングしています。同社のマップは、化粧品と言う一般消費者向け商品を提供している特性からか、商品購買行動におけるSNSの役割を重視しているのが特徴と言えます。

まとめ

カスタマージャーニーマップは販促活動の指針となり、販促活動上の隠れた問題点を発見するツールにもなります。マップの初バージョンを作成した後は定期的な見直しと改善を行い、その度にマップのバージョンアップをすればマップの完成度が高まります。そうすればより効率的で効果的な販促活動が可能になるでしょう。